「ただの自己犠牲ではなく…」
 関西を拠点にして活動している自閉症やダウン症の子供達、若者達による「楽団あぶあぶあ」とミュージカルチーム「LOVE」との公演がNYのトライベッカとNJのラマポ大学で5月にもたれようとしています。このグループの代表をしておられる東野洋子さん、ご主人の雅夫さんが、2年程前から準備のために何度かこちらの方に訪問して来られ、私も個人的にお話をさせていただいたり、またビデオを拝見させていただいたりして、楽しみにしています。
 その東野さんが繰り返し繰り返しおっしゃるのに「自分の幸せと、他の人の幸せが重なることがすばらしいと思いませんか」ということがありました。初めは「そうですね」とあたりまえのように相づちを打っていただけですが、何度かお話をしているうちに、「これは私達が、いや、私が見失い易いことだぞ」と思わされました。教会で「愛」とか「奉仕」とかが語られるとき、「自己犠牲」ということが強調されたり、強調されなくても、当然のように意識されたりします。一般に言われる「キリスト教精神」というのもこんな感じです。これは決して間違ったことではないのかもしれませんが、うっかりすると、「私はこの人のために自分の人生や、自分の楽しみを犠牲にして、尽くしているんだぞ」と肩を張った、何か、押し付けがましく、恩着せがましい態度になってしまうのではないでしょうか。私は自分の中に「愛」とか「奉仕」とか言うときに、そのようなものがあるのではないか、と気が付かされたのです。
 「自分の幸せと他の人の幸せとが重なる…」という言葉と、東野さんご自身の生きる姿勢の中に、そんな肩に力の入った正義感とは無縁の、とてもすがすがしいものを感じました。もちろん、ご夫妻がここまで来られる中にはたくさんの犠牲が払われているのでは、と思います。でも、共に生きる仲間達の幸せがそのまま自分の幸せであり、喜びであり、決して無理をしていない自然な歩みに見えるのです。
 しかし、考えてみれば、聖書に書かれている「神の愛」もそういうものではないでしょうか。私達の幸せがそのまま神の喜びになる…という、そういうものなのではないでしょうか?もちろん、クリスチャンの人たちが大好きな、
  「「神はそのひとり子を賜ったほどに、この世を愛してくださった。それは御子を信じる者がひとりも滅びないで、永遠の命を得るためである。」
(ヨハネによる福音書3章16節)
 という聖書の言葉にあるように「神のひとり子イエス・キリストが犠牲になった」のです。けれども、それは父なる神も、子なるキリストも決して「無理して」ではなかったのです。喜びだったのです。イエスが話されたたとえ話にこんなのがあります。
 ある人に2人の息子があった、その弟の方が、財産の分け前を要求し、出ていってしまった。弟息子は町に出て放蕩に身を持ち崩してもらったものを全部使い果たしてしまった。運悪く飢饉が襲ってきて、食べるものもなく、身を寄せた人には豚飼い(当時は豚は汚れた動物と考えられていた)をやらされて、惨めな気持ちになったとき、弟息子は我に帰る。自分は何をやっているのだろう、お父さんのところでは雇い人までが腹いっぱい食べているのに、息子の自分はここで飢えて死のうとしてる…さあ、帰って召使でいいから使ってもらおう。彼が帰っていくと、お父さんは遠くから息子だとわかって走りより、抱きしめた。そして、それからは大パーティー。牛の丸焼きまで出て大喜びをした。しかし、それで収まらないのがお兄ちゃんの方。1日仕事して帰ってきたら、うちでは大パーティー。召使に聞くと、「弟様が帰ってこられたからお父様が大喜びで…」と言う。怒ったの怒らないのって、いじけて家に入ろうとしない。そこでお父さんが出てきてなだめる。「あいつはいなくなっていたのに帰ってきたんだよ。さあいっしょに喜ぼうじゃないか」
(ルカによる福音書15章参照)

とストーリーはこんなところなのですが、私が大好きなのはこのお父さんの最後の言葉。「あなたの弟は死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから、喜び祝うのはあたりまえである」。「喜び祝うのはあたりまえだ!」お父さんは兄息子に向かって「いろいろあるだろうけど我慢してあいつを迎えてやろうじゃいか」とか、「これもあいつの将来のためだ、一緒に我慢してやってくれ」なんて言わなかった。「喜び祝うのはあたりまえだ!」神様はこんな愛で愛してくださっているのです。私達の幸せを自分の喜びとして…。そして、私達もこのような自分の喜びと周りの人の喜びが一つとなるような愛を持つようにと願っておられるのです。
 「自分を愛するようにあなたの隣人を愛せよ」
(マタイによる福音書22章39節)
 楽しみにしています。「あぶあぶあ」と「LOVE」の公演。彼らの喜びを皆さんの喜びにもしませんか。5月4日にラマポ大学で、6日にトライベッカ・パフォーミング・アーツセンターで。お問い合わせは、日本は東野さん(078-921-0761)、アメリカは日米ウェルネス協会の神山さん(201-447-7040)まで。
月報2000年2月号“牧師室から”