「ミニ聖地旅行の記」

昨年秋ある知人夫妻から一緒にイスラエルに行かないかとお誘いを受けた。その知人のパートナーで私たちも良く知っているユダヤ系アメリカ人がイスラエルの経済振興に寄与した功績で国家表彰を受けるのでそのお祝い、私たちも多少関係しているイスラエルのベンチャービジネスの視察、それに高橋さんはクリスチャンだからイスラエルには興味があるでしょう、と。私たちはイスラエルと聞いて二つ返事で連れていって頂くことにした。

私たちは一週間のイスラエル訪問の内三日半を聖地旅行にあて、日本人ガイド付きミニバンで宿泊地のテルアビブを拠点に南は死海のほとりマサダ要塞から、北はガリラヤ湖北岸のカペナウムまで走りまわった。イエスにまつわる聖地はこの辺りに集中しているから駆け足ながら重要なポイントはほぼ網羅できた。訪問した地名を列挙すると、(第一日)マサダ、死海、エリコ(第二日)ナザレ、カナ、カペナウム、マクダラ、エンカレム、タブハ、ティベリア、ガリヤラ湖、ヨルダン川(第三日)オリーブ山、エルサレム、ベツレヘム(第四日)ヤッフォ、カイザリア、ハイファ、カーメル山、などである。

イスラエルは南北約400粁、東西13〜110粁、面積二万平方粁でほぼ四国の大きさ、人口は約550万人である。この小さな空間に「文明発祥の地」「世界三大宗教の聖地」などの称号が与えられ、その戦略的立地条件の故に四千年に及ぶ歴史を通じてエジプト、アッシリア、バビロニア、ペルシャ、ギリシャ、ローマ、ビザンチン、アラブ、十字軍、オスマントルコ、イギリスなどの覇権の対象となってきた。そしてこれらの歴史絵巻が夫々の遺跡となって我々の手に触れられる形で残されているのだからイスラエルの観光は魅力的だ。とにかくここに来ると千古の昔がつい昨日のように感じられ、イエスの時代も生き生きと身近になってくる。しかしこの国のキリスト教徒は2%に過ぎないと聞き意外に思った。

イスラエルの国土は地中海沿岸地方やガリラヤ湖周辺など一部に緑のある処もあるが大半は乾燥した砂漠でそれも荒々しい起伏の続く不毛地帯である。首都エルサレムもこうした「荒野」をどんどん登って行って海抜800米の辺りにこつ然と大都会が顕れるのである。序でながらエルサレムを越えて東方向に降って行くと死海に達するがここは海抜マイナス400米の低地である。砂漠を旅していると未だにベドウィンが駱駝と共に千年一日の如き原始的な生活を送っている姿に出逢うが、その一方で地中海沿岸のテルアビブは新しいビルの立ち並ぶ近代都市、イスラエル最大の貿易港ハイファにはTechinon Instituteに象徴される様にコンピュータや医療機器など世界の最先端を行くハイテク技術の研究機関が立ち並ぶ。これら新しいイスラエルの担い手は言うまでもなくユダヤ人だが、彼らは2000年前に国外に離散したユダヤ人ではなく、世界中の先端技術を身に付けて移住してきた様々なタイプのユダヤ人なのだ。しかし彼らは聖書の預言によってイスラエルに魅せられ祖国再建の希望に燃えて集まってきた点では一致している。

建国50年、小国ながら何百ものキブツ(集団農場)で不毛の土地を肥沃な土地に変え、ハイテク技術で勝負しようとしているイスラエルだがアラブ人とユダヤ人の根源的な争いはまさに悲劇である。多くのユダヤ人が心の底で又いつか同じことが起きるのではないかと恐れていると言う話をきいた。しかしユダヤ人地区ではユダヤ人とアラブ人とは表面的には仲良く共存しているように見えた。アラブ人地区でもヘブロンなど特殊なところは別として共存して行ける素地はあるのではないか。やはり「政治」がお互いの対立を煽り増幅しているのではないかと思う。

キリスト教の大部分の遺跡はその上に教会堂が建てられているが新しいものも多くやや有り難みに欠ける。私はむしろ掘り出したままの遺跡に感動を覚えた。一つはキリスト教の遺跡ではないがマサダ要塞である。紀元七十年エルサレムがローマに滅ぼされた後、約九百名のユダヤ人がマサダに立て籠もり三年に亘ってローマ軍と交戦の末、紀元七十三年殆ど全員が自決、このときから千九百四十八年のイスラエル建国まで約二千年に亘りユダヤ民族は世界に離散することになったのである。私が感動したのはそこに日本民族に共通する潔さを見出したのと、ユダヤ人の宿命的哀しさを感じたからである。それともう一つ興味をひいたのはローマの総督が住んでいたカイザリア(ポンテオピラトの表札も発見されている)でここが世界にむけてのキリスト教の発信基地であったという点である。廃墟から目の前に広がる地中海を眺めているとキリスト教がここから使徒達によって全世界に広められて行ったのだと感動をもって実感されたのである。

三日半のミニ聖地旅行は私たちとキリスト教及びイスラエルとの距離をぐっと短くしてくれました。それは神様のお導きだったと信じています。主に感謝して。


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